シェフプロフィール

田村隆 シェフ和食

東京・築地の老舗和食店「つきぢ田村」の調理場で腕をふるうだけではなく、講演やお料理教室など日本各地を回る。TV出演や執筆活動を通じ、和食文化の普及や伝承に力を注ぐ「現代の名工」。

つきぢ田村

シェフプロフィール

つきぢ田村三代目

田村隆

生年月日1957年11月30日

 

1957年「つきぢ田村」の長男として誕生する。

1980年、玉川大学文学部英米文学科を卒業後、大阪の名門料亭「高麗橋吉兆」に入門。3年間の修業を経て、つきぢ田村へ。

「料理は五つの味(甘い・酸っぱい・苦い・塩辛い・うま味)の五つの味がうまく調和していなければいけない。それでこそ、食べるお客様はうまいと感じるものだ」という、創業者・田村平治氏の「五味調和」の心と味を受け継いでいる。

「つきぢ田村」という日本料理の最前線で腕をふるう一方、NHKをはじめとしたテレビ番組や料理学校の講師、また料理本等の出版など、一般に向けた食の伝承にも力を注ぐ。

2007年、まだ学生だった私がうまれてはじめて自分のお金で食べに行った本格和食が、つきぢ田村の懐石だった。当時、ひとり7000円だったか、8000円だったか。誕生日の近い友人と二人で、いただいた和食が、どれもすばらしく美味しくて、料亭って「すごい」と驚くと同時に、おいしいもの食べ歩きの人生のスタートとなった。

縁は異なもの。

今、私の目の前にそのつきぢ田村の「若主人」田村隆さんが立ち、ひと品、ひと品、素材の活かしかたから、だしのひき方、煮物の作り方を、やってみせてくれている。

幼いころから料理上手な母親に、みっちりと仕込まれたお陰で、一通りの料理はできるつもりの私だが、田村隆さんのレシピ撮影は、毎回、毎回、その「新しさ」に驚かされる。

エピレシピの現場では、田村さんはNHKや、ほかの料理番組とは、一味違う切り口で、料理をおしえてくれようとしている。

 

たとえば、煮物を作るならフライパン。

きざんだ野菜にだしをはって火にかけたら、アルミホイルの落し蓋をして沸くまで待って、すぐ火から外す。少しさめたら、少し調味料を足して、また沸かし、また火から下す。味付けは沸かすごとに少しずつ、少しずつ。そうこうしているうちに、やがて味が決まったところで、仕上げのしょうゆ。

「私、失敗しないから」どこかのドラマで聞いたセリフを面白おかしくつぶやきながら、「だれがやっても失敗しない」それでいて、特別な調理器具や、特殊な調味料も使わずに、普通の家庭で、確実においしい和食を作る方法を教えてくれる。

 

たとえば、親子丼。

田村さんは、鶏もも肉を取り出すと、皮目の方をいきなりフライパンで焼いてしまう。

これをバットに乗せて、そのまま冷凍庫へ。

鶏肉が、いい感じに半分凍ったところで、包丁でザクザク一口大に。

これが下ごしらえ。

「こうすると、ぐにゅぐにゅしなくて、同じ大きさにきれいにカットできるでしょ」

鍋にだしをはり、一口大の鶏肉を入れたら、煮立たせて親子丼の仕上げ。

実はこの下処理をした鶏肉の効果が絶大で、焼き目を付けた鳥皮が、だしに絶妙な香りとうまみをつけるのだ。

親子丼はもちろん、鍋や、ちょっとした鳥の煮物など、あまりにも重宝なので、我が家では、料理一回分ずつの小分けを作って、冷凍庫の常備品となっている。

 

たとえば、お蕎麦。

「ねね、10:3の法則って知ってる?」

誰もが思いつくことではなさそうな、特別なレシピを話すとき、とてもお茶目な顔をする。

田村さんは、おもむろに乾燥そばを取り出すと、バットに並べ、何と上から水をはった。

「このまま10分」

さて、10分が立った。乾燥そばは水分を吸収して柔らかくなっている。

「熱湯で3分」

柔らかくなったそばは、たったの3分で茹で上がった。

しかも「まるで生めん」のような口触り。

田村さんは驚く私たちに「どや顔」をしてみせた。

たとえば、大根。

つきぢ田村では、食材を決して無駄にしない。

ふろふきを作るために、厚めに向いた大根の皮は、細切りにして、ざるで乾かす。

自家製切り干し大根だ。

使うときは水でもどして、ゆっくり、ゆっくりに含めるのだが、これがめったやたらに美味しい。

お陰で、私も大根の皮を捨てなくなった。

 

田村さんのレシピは、現在、一日あたりの撮影で、素材3種、一つの素材につき、10品の料理を作る。

30品の料理を一から作っていくわけだが、どの調理法にも驚きがあり、ひらめきがあり「新しい」。

それでいて、家庭ではやらないような面倒な方法は、一切使わない。

料理を作りながら、「あ~こういう面倒なことは家庭でやらないよね。やりなおし、やりなおし」

こうして作る本格的な美味しい和食を、エピレシピでは、「田村隆のあなたも作れる本格和食」と名付けたいと考えた。

 

田村さんは、鉄道模型が趣味だと聞く。

手先がとても器用で、前回は縁が欠けていて撮影に使えなかった「うつわ」が、次の撮影の際には、金泥で見事に繕われていたりする。ご自分で繕われたそうだ。

 

田村さんはエッセイも書く。

実はこのエッセイが秀逸である。

料理のこと。修行のこと。

料理本としての面白さはもちろんだが、凝り性で、ユーモアにあふれた人柄と、

なによりも初代が大好きな「お爺ちゃんっ子」であることが伝わってくる。

代表作「隠し包丁」、おすすめである。

 

撮影は、毎回「つきぢ田村」の2Fの厨房で行われる。

広々した厨房の片側には、3台のテーブルと、大きな炊飯器が並び、

レシピの撮影の準備を進める私たちの向こうで、若い料理人たちが「まかない」を食べている。

料理人たちは、おなじ窯の飯を食べ、一つ屋根の下で共同生活をしながら、

一流の板前を目指している。

 

ひとしなひとしなが、新しく、ひとしなひとしながとびきり美味しい。

あなたも作れる本格和食。

ぜひ挑戦していただきたい。

そして、ぜひ、田村さんの日本料理を味わいに、つきぢ田村を訪れてみることをおすすめする。

 

2010年「現代の名工」厚生労働大臣賞受賞。(社)日本料理研究会 師範。

著書に、「エッセイ「隠し包丁」(白水社)、「日本料理の基本」(新星出版社)ほか多数

 

記事:龍蔵寺 烏