【books】片岡護『家庭でできる本格イタリアン、プロの味。』

料理好きの方、美味しいものを求めてやまないグルメな方、そして食にまつわる本を読むのが好きなネットユーザーの皆さんに、ぜひおススメしたい一冊がこちら。『家庭でできる本格イタリアン、プロの味。』は、まさに“読むレストラン”。伝説のシェフが長年培ってきた技と感性を、惜しみなく詰め込んだ珠玉の料理本です。
著者の片岡護シェフといえば、日本に本格イタリアンを根付かせた第一人者として広く知られています。しかし、そもそも片岡シェフがイタリア料理人を目指したのは、意外にも偶然の巡り合わせからでした。もともとはフレンチの道を志していた片岡青年が、修業先として選んだのが東京・赤坂の「ホテルニューオータニ」。そこではフランス料理と並んで、イタリア料理も学ぶ機会がありました。当時の日本ではイタリアンはまだ「ナポリタン」や「ミートソース」といった喫茶店の定番メニューという印象が強く、現在のような本格イタリア料理はほとんど知られていませんでした。
そんな中、イタリア料理の自由な発想や、素材の持ち味を最大限に生かすシンプルな調理法に心を奪われた片岡シェフ。「これからはイタリア料理の時代が来る」と確信し、イタリアへの研修を経て、1983年に自らの店「アルポルト」をオープンさせます。これがまさに、日本に本格イタリアンブームを巻き起こすきっかけとなりました。本書には、そんな片岡シェフの料理への情熱と、料理人としての原点が随所に込められています。
中でも表紙にも登場する「ジェノベーゼソースのパスタ」は、片岡シェフの代名詞ともいえる一皿。バジルの香りと鮮やかな緑が食欲をそそり、オリーブオイルやチーズとのバランスが絶妙なソースは、まさに“シンプル・イズ・ベスト”の極み。プロのちょっとしたコツを押さえるだけで、自宅でも驚くほど本格的な味に仕上がるので、ぜひ挑戦してほしいレシピです。
さらに、もう一品ぜひ注目したいのが、「仔牛のミラノ風カツレツ」。薄く叩いた仔牛肉に細かいパン粉をまとわせ、香ばしく焼き上げる伝統料理ですが、片岡シェフの手にかかると、素材の旨みを最大限に引き出し、シンプルな中にも奥深い味わいが広がります。添えられるレモンやルッコラも、イタリアの風を感じさせる名脇役。食卓が一気に華やぐ一品です。
単なるレシピ集にとどまらず、「なぜこの食材を選ぶのか」「味を決めるタイミング」「盛り付けで魅せる工夫」といったプロならではの視点も満載。料理好きにはもちろん、読んでいるだけでイタリアの風景や食卓が目に浮かぶような、豊かな読書体験が楽しめます。
「料理は愛情」という片岡シェフの信念が、全ページに宿るこの一冊。イタリアンを愛するあなたにこそ、ぜひ手元に置いてほしい、まさに“人生を豊かにする料理本”です。